若山牧水:1885(明治18年)~1928(昭和3年)
享年43歳。宮崎県日向市に生まれ、神奈川県沼津市に没す。
学校の教科書にも載っていたくらいだから、牧水とその短歌を
知っている人も多いとおもう。酒を愛し、旅を愛し、歌を愛したこの、最も純朴な真の歌人らしい歌人として、生涯職業をもたず、歌人として貧しい、短い生涯を終えた。・・・・・・
牧水は、自分の歌を「いのちの寂しさに耐え兼ねて叫ぶ声。よろこびに挙ぐる声。それが即ち我らの歌でありたい」と書いている。彼は生涯9千首の歌を遺したが、私は、小さな歌集一冊しか持っていないが、これで十分だ。
☆ ☆ ☆
☆・・・幾山河 越えり行かば 寂しさの
果てなん国ぞ 今日も旅行く
☆・・・白鳥は 悲しからずや 空の青
海の青にも 染まずただよふ
☆・・・けふもまた こころの鉦を 打ち鳴らし
打ち鳴らしつつ あくがれて行く
☆・・・君かりに わたつみに 思われて
言いよられなば いかにしたまふ
註:わたつみ 海を支配する神
☆・・・白玉の 歯にしみとおる 秋の夜は
酒は静かに 飲むべかりけり
誰でも知っていそうな歌を五首ばかり紹介してみた。
八木 重吉の詩にこういうのがある。
「素朴な琴」
このあかるさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美しさに耐えかねて
琴はしずかに鳴りだすだろう
牧水の歌も、秋のしずかさに、さそわれて、うたい出したような、おももちにさせられる。
また、幾山越えさり行かば・・・・という一首は。
カール・ブッセの詩想と酷似している。
「山のあなたの空遠く
幸い住むとひとのいう
ああ、われひとと尋めゆきて
涙さしぐみ帰り來ぬ
山のあなたのなお遠く
幸い住むとひとのいう」
牧水が、亡くなったとき、まだ9月の残暑の厳しい時期だったにもかかわらず、しばらく腐臭がなかったという。医師は体がアルコールづけみたいなことだったのだろうと。語ったという
この歌人は生涯「仕事」に就かなかった。牧水は地方へ旅を続け、北海道から、沖縄まで渡った。芭蕉もそうだったが、その土地その土地の少し裕福な人たちから、なにがしかのものを受けながら、歌をつくり続けていたようだ。