道程
僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る
ああ、自然よ
父よ
僕を一人立ちさせた広大な父よ
僕から目を離さないで守る事をせよ
この遠い道程のため
この遠い道程のため
失われたるモナ・リザ(抄訳・後半)
モナ・リザは歩み去れり
かつてその不可思議に心をののき
逃亡を企てし我なれど
ああ、あやしきかな
歩み去るその後かげの慕はしさよ
幻の如く、またアヘンの焼く畑の如く
消えなば、いかに悲しからむ
ああ、記念すべき霜月の末の日よ
モナ・リザは歩み去れり
樹下の二人
・みちのくの安達が原の二本松 松の根かたに人たてる見ゆ・
あれが阿多多羅山(あだたらやま)
あの光るのが阿武隈川(あぶくまやま)
かうやって言葉すくなに坐っていると、
うっとりとねむるような頭の中に、
ただ遠い世の松風ばかりが薄みどりに吹き渡ります。
この大きな冬のはじめの野山の中に、
あなたと二人静かに燃えて手を組んでいるよろこびを
下をみているあの白い雲にかくすのは止しましょう。
ここはあなたが生まれたふるさと、
あの小さな白壁の点点があなたのうちの酒蔵。
それでは足ををのびのびと投げ出して、
このがらんと晴れ渡った北国の
木の香りに満ちた空気を吸おう。
あなたそのもののやうなこのひやりと快い、
すんなりと弾力のある雰囲気に肌を洗はう。
私は又あした遠く去る、
あの無頼の都、混沌たる愛憎の渦の中へ。
ここはあなたの生まれたふるさと、
この不思議な別個の肉親を生んだ天地。
まだ松風が吹いています、
もう一度この冬のはじめの物寂しい
パノラマの地理を教えて下さい。
あれが阿多多羅山
あの光るのが阿武隈川。
十和田湖畔の裸像に与ふ
銅とスズの合金が立っている。
どんな造型が行われようと
無機質の図形にはちがひがない。
はらわたや粘液や脂や汗や生きものの
きたならしさはここにない。
すさまじい十和田湖畔の円錐空間にはまりこんで
天然四元の平手打をまともにうける
銅とスズの合金で出来た
女の裸像が二人
影と形のやうに立っている。
いさぎよい非情の金属が青くさびて
地上に割れてくづれるまで
この原始林の圧力に堪えて
立つなら幾千年でも黙って立っていろ。
妻智恵子が没してから二十年近く、昭和三十一年に光太郎が亡くなるまで、主に岩手の地で生き続けた。詩集をみていくと、どれほど深く智恵子を想っていたか察せられる・・・・
そう言えば、うちのちえ子が、うちの前の朝顔が今年も咲いたと
言って来た。青い二輪の花が咲いていた。
花見えるかな? もう少ししたらもっと咲くよ・・・・