
ルカは主イエスの直弟子ではなかったばかりでなく、ユダヤ人でもなかった。ローマの牢獄においてパウロと共にいた者のうち、ユダヤ人はアリスタルコ、マルコ、ユストの三人だけであると言っているから(コロサイ4:10、11)、ルカはユダヤ人ではなかったに相違ない。エウセビオスは、ルカはシリアのアンテオケの出身であると言っている。彼の回心の事情はよく分からないが、パウロに最初にあったのは、トロアスにおいてであったようである。(使徒16章:8、10)。ここで彼は初めて「わたしたち」と書き始めて、最後の章に及んでから、この時以降彼は献身的伝道の生涯に入ったのであろう。以来彼はパウロに忠実な同伴者として、パウロのいくところどこへでも従い、ローマの牢獄でも一緒にいた。デマスはこの世を愛し、十字架の道を捨ててパウロを離れたが、ルカだけは決して離れなかった。(コロサイ4:14。ピレモン24.Ⅱテモテ4:11)。ルカは医者であったから(コロサイ4:14)その当時の科学者である。もちろんマルタ島でその土地の人を癒したのはパウロであって、医者ルカではなかった。(使徒28:7,9)。彼の医術はたいして役に立ったとは思われない。しかしいっさいを主にささげたとき、神は彼の学識を用いて最も貴重な働きの一つを成し遂げさせなさった。彼は科学的に洗練されたその頭脳をもって、主イエスのご生涯をはじめ、初代教会の歴史の材料をあまねく集めてそれを書きしるした。その筆は洗練されたものであり、その文は流麗である。すべてが主の御手にゆだねられるとき、何一つとしてお役に立たないことはない。ルカによる福音と使徒行伝は彼の不朽の名作であった。初代教会のただ一つの材料である。しかも、これらの書は、ただ一人のために書かれたものである。ルカによる福音書と使徒行伝との名あての人は、テオピロという一個人である。ルカはこのように書く時に、これが全世界の人々に永久に益となる聖典の一つとなるとは、夢にも思わなかったであろう。一人の魂のためにする真実な愛の奉仕が、意外にも世界的最大の働きとなったのである。全世界の救いとか、万物の復興とか、掛け声ばかり大きくて、個人的に実のある一つの奉仕もできない者の生涯は哀れである。大いなる裁きの日に、終生、から鉄砲ばかり撃ってたことを知って恥赤らむであろう。・・・・・・
彼はまた仁術を業とする医者として、いつも病人や弱者の友となることを学んだであろう。この点をも聖霊はお用いなった。彼の書き表した主イエスのお姿は、同情深い人の子であった。彼によって伝えれた主の譬え話は、きわめて人情味あれるものであった。よきサマリヤ人の譬え、失われた羊、銀貨、放蕩息子の譬え、などはそのよい例である。そして、格別に婦人についての記事が多い。この福音書に記された12の婦人の物語の中で、九つまではこの書にある。そして格別に婦人に関する記事が多い。これが婦人の福音書と呼ばれる理由がそこにある。・・・・・・
また、パウロの第一回伝道旅行の後、その一行に加わるまで、マケドニアの教会で定住伝道師格で奉仕していたようである。(使徒16:21,20)。マケドニアすなわち、ピリピ地方の教会は模範的であった。パウロの手紙のうち、この教会に宛てられたものだけには、一言の叱責もない。ただ喜びと勝利とに輝いている。それは、この教会は愛に満ちていたからである。この教会はどの教会よりも施しに励んだ。迫害と困難にあっても、分にすぎてささげた。(Ⅰコリント8:1~5)。その点においておいても諸教会の模範となったのである。・・・
パウロに対しても主にある愛を表して、幾度となく贈り物をした。「物のやり取りをして、わたしの働きに参加した教会は、あなたがたのほかに全くなかった・・・・(ピリピ4:15,16)。それがその指導者であったルカの感化によるものであることは言うまでもない。同情と愛に満ちた指導者にならって、教会もそうなったのであろう。・・・・・・
聖書の記者は皆ユダヤ人であった・ただ一人ルカだけが異邦人である。それゆえ何一つとらえられるところがない。マタイはユダヤ人のためにその福音書を書いた。マルコは、ローマ人を前にして、ペテロから聞いたことを書いた。ヨハネの眼中には教会があった。しかし、ルカは全世界を目当てにしている。名あて人となっているテオピロは異邦人であったろう。主の系図を書くとき、マタイがダビデを経てアブラハムまでさかのぼっているのに、ルカはアダムまでさかのぼって「このアダムは神の子である」としている。ルカの伝えた主イエスは「異邦人を照らす啓示の光である」。その福音は「すべての民に与えられる」ものでありすべての人の救いのためであった。(3:6)・・・・・・・

沢村五郎著、聖書人物伝。より転載。ここまで、200文字近くになった。ルカ兄関する参考書があまりないので、沢村師のものを用いたが、少し、文章が前のめりになっているように思える。ルカの出自についての言及が、一応載せてはみたが、どうも、ピンとこない。