神様のために40年余働いてきた姉が召される10日前のことでした。私は琵琶湖のほとりにある滋賀大学病院に姉を見舞っておりました。多発性骨髄腫と診断され余命６ヵ月と言われてから、５年目を迎えていました。その間良いと思われる治療の数々を試みてきたのですが、すべての病院から見放され、やっとの思いで、この滋賀大学病院が引き受けてくれたのでした。・・・・・・・
夫である川村牧師は8月にアメリカでこの病気に効く新薬が出る、との情報を得て、それまでの６ヵ月間、頑張って生きていて欲しいと望みをかけていました。・・・・・・・
無菌室にいた姉に面会は許されていませんでしたが、妹です。秋田から来ましたと言うと、面会がゆるされ、マスクをかけスリッパを取り替え、消毒を済ませ、ようやく入室が許されました。既に、時々心臓が止まったりする、うわごとを言うようになってきたとの連絡を受けていたので、面会時間も30分くらいかなと思っていました。でもその時は、不思議にも意識もはっきりしていて、二日間も、朝から夕方まで長い時間、昔の思い出を二人で話し合うことができたのです。看護師さんが10分おきに見回る重病人なのに、「少し休んでね」といっても、一度も休まず私に話しかけてくるのです。・・・・・・
その時、私は二つの不思議な神様のみわざを、姉の口から聞きました。その一つは、姉が高校受験に失敗した時のことでした。希望した高校は進学校で倍率の高い高校でした。でも成績優秀だった姉については誰も受験に失敗するとは考えていなかった。それが試験中に、それも数学の時間に頭が割れそうになって、耐えきれずに試験会場を出てしまった、というのです。後日先生が、「他の科目ならともかく、数学が白紙では救済の術がなかった」と言ったそうです。・・・・・・
「なぜこんなことになったのか」悩んだ末、私立のそれも洋裁や料理をなどを専門に教える高校に入ったのです。
しかし、もし受験に失敗しないで希望の高校に入っていたら、私はクリスチャンにはなることはなかったでしょうと語るのでした。姉は一枚のトラクトを受け取って教会に導かれたのです。そのトラクトは自分が悩んで入学した校門の前で配られていました。その後、牧師夫人となり5人の子供を育てる上で、あのいやいやながら入った高校での学びが、料理が、可愛い服の作り方・・・すべてが役に立ったと。受験に失敗したときは死にたいほど悩んだが、その事が後で全部判ったんだよ、と話してくれました。
姉はまた、もう一つの神のみわざを話してくれました。それはあるらい病患者のことでした。その頃、と言ってもすでに50年以上昔にさかのぼるのですが、青森福音キリスト教会では、当地にある、らい患者の施設を定期的に訪問しておりました。姉もその集会に一度だけ出席したことがあったのです。そこで姉は「野里」から来ましたと言うと、キヨさんという患者の一人が非常に驚いたそうです。「野里」は私たちが生まれ育った村で、リンゴ畑に囲まれています。本当にのどかな村なのです。
キヨさんはその野里に嫁いでいた人でした。私たちはキヨさんについては何も知りませんでしたが、母は覚えていました。いつもよい着物を着て、透き通るような肌をした綺麗な人だったと言います。でも一年もしないうちに発病し、離縁され、風呂敷きつつみ一つ持たされて施設に隔離されたとのことでした。その後生きているのか死んだのか全く分からないと、母話していました。・・・・・
姉は家に帰り、その施設へ行ったこと、そこでキヨさんと言う人に会ったこと、お茶をごちそうになった事などを話した。母は、何故そんなところへ行ったのかと怒ったのを、私も覚えています。・・・・・・
でも姉は、そのキヨさんとの出会いの中で、彼女が長い間、「野里」のために祈っておられたことを知らされました。そして、キヨさんは、「今、ここに救われた方を送ってくださった。神様は私の祈りを覚えていてくれましたと」。話してくれたそうです・・
「野里」それはキヨさんには思い出したくもない地名だったに違いない。にもかかわらず、そこに救われる人が起こされるのを祈っていたのです。
姉は、この人に「祈られていた」。この人の祈りがなかったら私は救われることはなかった。と。姉は話してくれました。それはとても大きな神様のみわざであると教えられたそうです。また、姉は話し続けた。野里でクリスチャンは私とちえこと、母が天国にいる、三人だね！！！。念を押すように繰り返すのでした。今年は、和重も行ったよ、今は、和重の残された子供たちのために祈りは続ているよ。その事を思う時に「一人の人の祈り」。自分の人生を呪ってもいいはずのキヨさんが、キリストの愛にふれたとき思い出したくもない、この野里の人々のために祈られた。
神様のみ計画は途方もなくはかり知れないと、思わされました。
今日は、十数年前に書かれたちえ子の証を載せました。まだ続きがありますので、日を改めて掲載したいと思う。
