イミタチオ・クリスティ

村の小さな教会

10月5日(火):たくましい男

f:id:dotadotayocchan:20210817115123j:plain

10年程前になろうか、一人の60歳くらいの人が突然、教会を訪ねて来た。

会堂へ入ってもらい話を聞くと、「母の葬儀を執り行ってくれないか」ということであった。自分はっクリスチャンで、若い頃淀橋教会で洗礼を受けている。母はクリスチャンではなかったが、お寺さんに、葬儀を断られたのでこちらに頼みに来たのだと言う。どこか辻褄の合わない話であったが、純朴そうな男で、怪しげなところはなかったので、引き受けることにした。問題は、何故お寺さんが葬儀を断ったかであるが、敢えて問うことはしなかった。後で、妻のちえ子にそれらしきことを耳打ちしたという。

「ハンセン」と。それがお寺さんに断られた主な理由らしかった。感染力の弱い病気ではあるが、田舎の方では依然として差別意識が強い、隣の家は土台のみ残し、引っ越している。・・・・・・・・

葬儀の参列者は、三人の兄弟と、葬儀社の担当者、私たち夫婦だけであった。そんなこんなことがあって以来、彼はちょくちょく訪ねて來るようになった。昨年は、リュックに柿の実をいっぱい詰め込み、両手にはレジ袋にこれまた柿の実を入れて、おおよそ24キロの道を歩いて、その柿を私たちの所へ届けてくれた。いつもは自転車に乗ってくるのだが、何故かその時は、歩いて来た。・・・・・・・・

昨日も来た。私たちと犬のルカの三人暮らしだと知って、牛丼を三人前、海老天三本、海苔巻き寿司、他いろいろ、レジ袋五つ六つ、持って来た。

「ちょっと待って、牧師を呼ぶから」と言ってちえ子が呼びに来て出て見るともう、風のように消えている。おかしな男だ。あの葬儀のことを恩に思っているのだろうが、おかしな男には変わりはない。・・・・・

一度だけ礼拝に出たことがあった。その日も歩いて来ていたので、彼の家の方面から来ている求道者さんに車で送ってくれるように頼んだ。その人は送ったのはいいが、次の週から礼拝に出なくなった。彼がどのような家に住んでいるか知ってしまったのである。迂闊だった。彼の家がハンセン者を出している家であることを地域の人は知っているのだ。迂闊だった。

彼も以後礼拝には出なくなった。・・・・・・・

今でもこうした田舎町では、起こる。それでも彼はいい男、たくましい男には変わりはないのである。冬場は買い物も大変だろう、教会には住むところがいっぱいある、おいでよ。と言っても首を縦に振らない。頑固なところもある。月に一度くらい見回ることしかできないが、たくましい男だ何とか生きていけるかも知れない。

f:id:dotadotayocchan:20210320124412j:plain